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           メール・マガジン

      「FNサービス 問題解決おたすけマン」

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    ★第158号       ’02−10−25★

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     ウソ回想

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  サーモ屋にウソは無い、と前号に書きましたが、それは<サーモ屋

  になってから>。 <になる前>には二つあって、一つはウッカリ、

  一つはシッカリ(?)。 どちらもある種のキッカケになった事件、、

 

 

 

●父のしていた商売は

 

大分類<部品加工の下請け>、小分類<電気接点製造>。 高導電率を

要するので材料は銅や銀、自腹で買っては手間をかけ、切り売りしては

長い手形で支払いを受ける、、 そりゃ<立て替え業>、我々貧乏人が

することじゃない、、 私は批判的な息子でした。

 

なら、好きにやってみな、、みたい、ある日アッサリ脳溢血死。 急に

バトンを渡されて面食らったが、必然的に<我が道>を模索することに。

 

しかし、そう簡単には切り替えられない。 何せ不本意<指名代打者>、

亡父の後始末にも追われる毎日。 気が付けばそれまで以上<それまで

通り>に、やむを得ずでしたが、やってましたよ。

 

3年経っても<下請け>稼業、どうしようもないな、、と思い始めた頃、

遙か彼方から進展が訪れました。 新聞広告の客、I県M市のN社から

電話、「見積書をもらったが、ちょっと来てくれないか」。

 

普通そんなことでは一々出向かない私なのに、何故かこの時は「ハイ」。

行ってみると、、

 

 

これで良いのかね? と念を押されて気付く迂闊さでしたが、作成者の

間違いで、<大きい方は高い、小さい方は安い>と書くべき2行が入れ

替わり、<大きい方>がスゴク安い、ことになってしまっていた、、

 

ウソの見積もりで引っかけた形でしたが、率直に謝って正し、幸いそれ

で受注と決まり(というノドカな時代でした)、遠路せっかく来たのだ

から、と見学させてくれることになり、、 でN社が、 

 

大手H製作所の機能部品を完成受注していたことを知りました。 フム、

この程度でもそんなことが出来るんだな、、  Seeing is Believing.

漠然としていた希望が現実的なビジョンに一変、<下請け脱却>!

 

<完成品>なら、ケースの中の空気も<売れる>! 自分のトレード・

マークを載せて売れる! <何を売るか>は後回し、売っている自分の

張り切った姿ばかり思い浮かぶ虫の良さでした。

 

  <完成品>とは言え機能<部品>、やはり受注生産しか出来ないが、

  売るのは<性能>であって、細部はお任せ頂く。 即ち工夫の余地

  が無限にある、というところに憧れたわけ。 そんなの

 

  今は珍しくもない発想ですが、我が国の二重産業構造が最も威力を

  発揮していた時期でもあり、その底辺で生まれ育った真面目人間に

  は<独立的な製造業>を思い描くキッカケなど無かった、、、 

 

その<完成品>を<サーモスタット>と決めるには数年を要しましたが、

<自分らしい人生>の出発点はこのN社訪問。 いつか自叙伝を書くと

したら表題は「すべては間違いから始まった」だな、と思いました。

 

しかし幸運の女神の前髪を掴むのは<思考>ではなく<反射>、それは

日頃の痛切な<想い>から生じます。 (理屈抜きでひたすら)求めよ、

さらば与えられん、、

 

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●さて<完成品>、何にする?

 

となれば<電気接点>はスイッチの部品、だからスイッチ屋、は短絡的。

顧客と競合することになってまずかろう。 じゃ、手がける人が滅多に

いないスイッチなら? で、サーモスタット。 それにも

 

液体や気体の膨張収縮を利用する種類もあるが、我々にはバイメタルの

加工経験があり、設備投資も少なくて済む。 うん、バイメタル式だな。

 

尤もそのタイプ、接点屋としては軽蔑してました。 それまでの通念的

バイメタル・サーモスタットは開閉速度がきわめて緩やかなので接点が

焼き付き、見当違いのお叱りが接点屋に来る、、

 

だからやるなら<速動式>。 これは例が少ないし、当然競合も少ない。

が、たいていは大形で高価、温度変化に鈍感、そんなのは作りたくない。

小型、安価、かつ定常的生産可能な受注量のあるもの、、で模索を続け、

行き当たったのが<モーター・プロテクター>。 それは文字通り、

 

 

モーターを保護するスイッチ。 当時は主に冷蔵庫のコンプレッサー用、

一般のモーターに比べロックしやすい。 ロックするとコイルが過熱し、

火災の発生もあり得る、、 そこで、

 

<温度、電流、あるいはその両方に感じて、ある条件▼を超えたら作動

し、回路を遮断するスイッチ>が必要になるわけですが、小型・堅牢・

大容量、さらに振動やGにも耐えねばならず、大変難しい。 そのため

手がけるのは当時世界に1社、テキサス・インスツルメンツ(TI)*。

 

  ▼UTC:Ultimate Trip Condition: たとえば「周囲温度65℃

   で電流20Aを通じ、(30±3)秒でオフすること」のような。

 

  *通産省とモメた後、ソニーの助けで日本に乗り込んだ時は半導体

   部門が主力。 しかし実はコングロマリット的多角経営、我々が

   着眼したのはケンタッキー本拠の制御器部門。

 

家電各社はTIから買うほか無く、しかしTIは意のままにならず、で、

自社内製化してはみるが悩みの種を増すばかり、、そこへ飛び込むのは

身の程をわきまえぬ無謀、ではあったが、お客様も競合も一流、相手に

取って不足無し、ゾウに挑むアリになろう、、 で、

 

早速色々な手を使ってサンプルや資料を入手し、最初はご多分に漏れず

デッド・コピー。 作った人のココロをひたすら探りました。 そして

 

金型から組立治具、熱処理炉から調整装置、試験装置、すべて<想像力

の産物>的手作り。 不眠ではなかったが不休で半年、<似せもの>が

ついに出来た時、改めて大モンダイに気付きました。

 

 <どうしたら相手に「これを試してみよう」と思わせられるか?>

 

何せ我々路地奥の零細工場、知名度ゼロ。 大手を訪ねても門前払いは

必定です。 冷蔵庫専門の電気技術者たちと膝詰めで話し合い、彼らの

試験装置に載せさせなくちゃ始まらない、というのに、、

 

*   *

 

で案じた一計が<日本クリクソン株式会社>。 TIの品が KLIXON と

いう商標で売られていたからです。 バイメタルがパチン! click! と

反転する音 sound で Click sound、それを縮めて KLIXON。 その

 

<クリクソン>を社名にすれば、相手は Klixon を輸入販売する会社か

と思って、一応会おう、くらいは言うのではあるまいか、の魂胆。

 

しかし、敵を欺くにはまず己から、やるなら本気。 まずそのコジ付け

社名が商標侵害にならないかを確かめ、次に会社を設立。 便箋、封筒、

名刺なども洒落たのを作り、、

 

<敷居をまたがせてもらうためのウソ>会社ではあったが不思議なもの

で、気分はたちまち外資系ビジネスマン、早くも<町工場>の枠を脱出。

よし、行動開始!

 

断わる余裕を相手に持たせないため、遠くても敢えて<飛び込み>専門。

すると難なく奥へ通され(ほらネ!)、ウヤウヤしく名刺交換となって、、

 

相手はやや訝しげに訊きます、「お宅は KLIXON とどんな関係、、?」。

こちらはニッコリ、「いいえ、何も」。 で、目をパチクリする相手に

 

今度は本名?の名刺を差し出しつつ「実は私共、、」と手短かに解説し、

見本品をザラリ。 「本日はUTCを伺って帰り、次回は御社仕様品を

お持ちします。 TI品との比較試験、して下さいませんか」。

 

以降<接点屋>の本名で、とすることは申すまでもありません。 即ち

相手さんに、良い品を有利な価格で手に入れる機会を失わせないように

するためのウソ、即ち正統的<方便>、だったつもりです。

 

**********

 

 

 

●しかし、絵に描いたように、、

 

はそこまで。 どの大手も技術部、開発部は伏魔殿。 本当のことなど

滅多に聞かせてもらえませんでした。 たださえ難しいUTCをさらに

厳しくし、何とか達成して見せるとまた狭めて来る。 そして

 

我々には2週間の猶予しか与えないのに、彼らが試した結果を知らせて

来るのは2ヶ月後、の不公平。 しかし自ら選んだ道、、で耐えるうち、

 

風の噂とテキの失策で、我々は本命になり得ないことが判明。 彼らは

すでにお気に入りの業者を抱えており、こちらのノウ・ハウはそちらへ

横流しされるだけだったのです。 やれやれ、

 

ミイラ取りがミイラに、、 ウソにかけては相手の方が1枚上手でした。

 

 

温度、電流、時間、の諸条件を指示されてからでないと部品製作にすら

着手できない、という点も不便に感じ始めていたので、モーター・プロ

テクターを断念することは容易でした。 しかも幸いその約2年の間に、

 

<ディスク>式サーモスイッチが認識され始めており、そのお客は同じ

家電メーカー、競合も同じTI社、で、未知数は<温度>だけ。 よし、

その土俵で戦おう。 <失われた2年>の経験が生かせる、、

 

これで方向は決まりましたが、その判断で良かった、と確信できたのは

さらに数年の後。 その間は、お客様の<特性>に翻弄され続けでした。

中でも曲者だったのは関西S社、いわば<組織犯罪>的。

 

ちょっとオカシイ、と感じた話は技術部から製造部、資材部、品質管理

部エトセトラ、担当者、上位者、、とマメに探りを入れて行けば、普通

IS、IS NOT、情報は要約して二手になる。

 

それで辻褄が合うか、とチェックすれば騙されずに済むはずなのですが、

S社では誰の答えも同じ、<二手>にならない、疑念の余地無し。 で

(常にチョー短納期のため)先行手配すると、あとからヒョッコリ

 

呑めない条件が浮上、「ノセられた!」。 しかし、出来てしまった分、

どうします? すると冷たくも、「ホカしまっか?」。 え?どういう

意味? バラすほか無かろう、マケるなら使ってやらないでもない、、 

 

なら、こちらにも覚悟が、、と張り合って、あまりマケずにお使い頂き

ましたが、サーモ屋の繊細な神経にはかなりコタエました。 前号末尾

のPA活用法も、こういう相手には通用しません。 悪しからず。

 

ちなみにサーモ屋卒業後、親交を得たTIマンにこの失敗談を披露した

ところ、「えっ、お宅も?」 聞けばやはりその手口。 あれはS社の

<文化>だったようです。 

 

**********

 

、、てな具合、人間世界のイヤラシさはキリ無しです。 が、妙な手練

手管を身に着けるより、ウソを必要としない、いや、交える余地の無い

Rational Process を、と元サーモ屋の元講師はお勧めして止みません。 

 

それが<頭の働かせ方の基本>だし、<基本>の良さは応用自在なこと。

一つシッカリ身に着けておけば、たとえ万能ではないにせよ、いくつも

憶えたり使い分けたりする面倒がありませんからね。  

                          ■竹島元一■

    ■今週の<私の写真集から>は、 ★夕焼け★

 

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